バイオリンにウレタン塗装するか?ギター職人がオイルフィニッシュにこだわる本当の理由
2026年6月1日
ギターの塗装について、正直に書く。
鏡面仕上げのボディは確かに美しい。バフで磨き上げられたウレタン塗装のギターを見ると、気持ちがいいとは思う。しかしいつもこう感じる。それならプラスチックのギターでいいのではないか、と。
バイオリン職人はウレタンで楽器を固めない。薄いオイルやスピリットニスを使う。木が呼吸できる状態を保つためだ。ギターだけが例外扱いされているのは、見た目の商品価値のためだけだ。私はその例外に乗っかる気になれない。
ワトコは使わない
オイルフィニッシュと聞いて多くの人が思い浮かべるのはワトコオイルだろう。定番と言われているが、私は使わない。
ワトコは亜麻仁油をベースとした乾性油だ。乾性油は空気中の酸素と反応して固まる性質を持つ。木材に浸透して硬化するという意味では理にかなっている。しかし臭いが強く、皮膜がほぼ形成されない。保護効果も乏しい。
木材に浸透するだけで表面に膜を作れないオイルは、正直なところ「塗った気になる」だけだ。
完全自然由来のオイルについて
安全性を最優先に考えるなら、ホルムアルデヒドを含まない完全自然由来のオイルという選択肢がある。実際に使っていた時期もある。
しかしこれには致命的な欠点が二つある。一切塗膜が形成されないこと。そしてステインを溶かして落としてしまうこと。
着色してからオイルを塗ると色が流れる。これでは仕上げとして成立しない。安全性と機能性はトレードオフになる場面がある。
私が使っているオイル
様々な製品を試した末に、現在使っているのは自然原料に蜜蝋と天然樹脂が配合されたオイルだ。コストと品質を両立できるものを探し続けた結果、これに落ち着いた。
このオイルの特性は明確だ。木材に浸透して内側から固まる。そして蜜蝋と樹脂の働きで、薄いながらも表面に皮膜が生まれる。
薄く塗れば木の質感を最大限に残しながら内部を保護する。塗り重ねれば皮膜が増し、多少の傷からも木材を守る。さらに塗り重ねを続ければ、極薄ラッカーに近い仕上がりも可能だ。
着色について
オイルフィニッシュ=木目そのままだと思われがちだが、着色は可能だ。ただし染料と顔料は別物で、目的によって使い分けが必要になる。
白系は顔料しか選択肢がない。染料では白を出せないからだ。
深みのある色には染料を使う。木目の奥まで色が入り、立体感が生まれる。鮮やかさを出したい時は顔料だ。水性かアルコール系かも素材と仕上がりによって使い分けている。
木が生きたまま手元に届く
分厚い塗膜で固めた楽器は、ある意味で標本だ。製造時点で時間が止まっている。
オイルフィニッシュの楽器は違う。弾き込むほどに手の脂が染み込み、傷がつき、色が変わる。それが嫌な人には向かない。しかし木が木のまま生き続けると思えば、それは欠点ではなく特性だ。
当工房がオイルフィニッシュ専門である理由は、手間や設備の問題だけではない。分厚い塗膜が嫌いだからだ。それだけだ。